「はやぶさ2」に搭載された望遠の光学航法カメラ(ONC-T)の画像などから小惑星リュウグウの形状モデルを作成し、その解析と重力計測からリュウグウの形成過程や自転進化について考察した。リュウグウは顕著な赤道リッジを持つコマ(独楽)型をしている。そのバルク密度(質量を体積で割った値)は1.19±0.02 g cm-3と低く、内部は空隙率が高い(>50%)と推定される。表面には大きな岩塊もあり、リュウグウがラブルパイル(瓦礫)天体であることを強く示唆する。リュウグウは回転対称性の高い形状をもつため、遠心力によって変形した可能性が高い。リュウグウがかつて現在の2倍の速さで自転していたとすると、その表面傾斜の分布が説明できることがわかった。ONC-Tによる分光観測データから、赤道リッジには宇宙風化の影響の少ない新鮮な物質が露出している可能性が高い。そのため赤道リッジにあるL08サイトは試料採取場所として好適である。帰還試料による解析が行われれば、リュウグウがどのようにして現在の形状となったのか、リュウグウのような炭素質小惑星がどのくらいの強度を持っているのかなど、さらに詳しい知見が得られると期待される。

リュウグウの形状モデル

リュウグウの形状モデル。AからDは赤道上の4方向から、Eは北極、Fは南極から見た形状。ONC画像およびLIDARの距離計測からStructure from Motion(SfM)という手法で作成した。SPCという別の手法での形状モデルも作成し、両者が良く一致することを確認している。
(Credit: 渡邊誠一郎ら)

研究の背景

小惑星探査機「はやぶさ2」は、地球に接近する小惑星であるリュウグウを目的天体として、2014年12月に打ち上げられ、2018年6月に到着した。地上からの表面スペクトル観測によりリュウグウは炭素質小惑星(広い意味でのC型小惑星)であることがわかっていた。炭素質小惑星は炭素質コンドライト隕石とスペクトルが類似しているため、同隕石に含まれる有機物や水をもつ可能性がある。「はやぶさ2」は世界で初めて炭素質小惑星にランデブーし、表面をリモートセンシング観測し、着陸機/ローバーによるその場計測を実施し、衝突装置による人工クレーター生成実験を行い、表面試料を採取して地球に持ち帰り分析する。リュウグウの母天体(*1)の特性を制約することで、氷が存在する外部太陽系と岩石主体の内部太陽系の境界付近での惑星形成過程と、地球への水や有機物などの物質供給過程について明らかにすることを目的としている。

研究内容と結果

「はやぶさ2」のリモートセンシング観測に基づいて、リュウグウの各種物理量を従来にない精度で決めるとともに、2つの異なる手法で信頼性の高い形状モデルを作成した。この形状モデルと光学航法カメラ(ONC-T)の画像・分光データ、重力計測などから、リュウグウの基本的な物理特性を解析した。

  • リュウグウはラブルパイル(瓦礫)天体である
    精密な重力計測と形状モデルから、リュウグウのバルク密度(質量を体積で割った値)は、1.19±0.02 g cm-3と低いことが明らかになった。炭素質コンドライト隕石の粒子密度を使うと、空隙率(粒子間にある空隙の体積割合)は50%以上となる。この空隙率は小惑星探査機「はやぶさ」が訪れたイトカワの44±4%よりも高い。イトカワはその高い空隙率などから、破壊された母天体の破片が再集積して形成されたラブルパイル(瓦礫)天体とされている。リュウグウ表面にイトカワの2倍の密度で大きな岩塊が分布することと合わせて、リュウグウはラブルパイル天体である可能性がきわめて高い。
  • コマ(独楽)型の形状は過去の高速自転により形成された
    リュウグウは顕著な円形の赤道リッジをもつコマ(独楽)型(spinning-top shape)をしていることがわかった。従来知られているコマ型小惑星は、高速自転天体(自転周期が4時間程度以下)がほとんどであったが、リュウグウの自転周期は7.6時間とゆっくりである。形状モデルの解析から、赤道断面の円形度および中低緯度帯の軸対称性が高いことがわかり、遠心力による変形が生じた可能性が高い。リュウグウの現在の形状解析から、自転周期を3.5時間にした場合、重力(引力+遠心力)に垂直な水平面に対して表面の傾斜が31°でほぼ一定となることが明らかになった。これは、リュウグウの形状が、かつてこのような周期で高速自転していた際に作られたことを示唆する。
  • 赤道リッジからの試料により形状形成過程が制約される
    ONC-Tによる分光観測から、赤道リッジは中緯度に比べて青く明るいスペクトルを示すことが明らかになった。宇宙風化(*2)が表面物質をより赤くかつ暗くするとすれば、赤道リッジは新鮮な物質が露出していることになる。コマ型形状の形成は赤道リッジの試料から制約することができる。私たちは赤道リッジに試料採取に適したサイト(L08)を選んだ。

リュウグウの形状進化について

コマ型形状の形成時期については、(1)破壊された母天体からの再集積時にそもそも高速自転するコマ型天体として形成されたか、(2)リュウグウ形成後に徐々にYORP効果(*3)によって自転が加速してコマ型が形成された可能性がある。(1)は、再集積時には自転が早いと形状が棒状に延びて、コマ型は作りにくいという問題点がある。(2)は、変形のモードが、表面の地滑りとなるのか、内部変形となるかはリュウグウの内部構造と物質強度に依存する。私たちは有限要素法を使った数値計算を行い、内部構造が一様で強度が弱ければ、内部変形モードとなることを示した。

将来展望:取得試料と比較研究への期待

赤道リッジの物質の新鮮さは、宇宙風化がどのように進むのかという問題と関連しており、さらなる地質学的解析と帰還試料による検証が必要である。この検証ができれば、高速自転小天体の変形モードが識別可能となる。変形モードの特定は小惑星内部の強度の推定につながる。また、米国のOSIRIS-Rexが探査している炭素質小惑星ベヌーとの詳細な比較をすることで、共通性と個別性をある程度弁別できると期待される。炭素質小惑星の強度は、それらが地球にどのくらいの量、どのような形態で(隕石なのか、より細かな惑星間塵なのか)もたらされてきたかを解明する上で鍵となる物理量である。4月に予定されている衝突装置(SCI)による人工クレーター生成実験は、リュウグウ表層の強度を知る上でも重要なものとなると期待されている。

*1: 母天体:より大きな小惑星の破壊によって生じた小型の小惑星に対して、もととなった小惑星を母天体という。
*2: 宇宙風化:微隕石衝突や宇宙線照射により進む表面物質の化学変化。
*3: YORP効果(Yarkovsky-O'Keefe-Radzievskii-Paddack effect):太陽光入射と天体の熱放射のアンバランスによって生じるトルクにより、太陽系小天体の自転速度や軸の向きがゆっくりと変化する現象。

本研究は、米国の科学雑誌『Science』誌のウェブサイトに2019年3月19日(日本時間3月20日)に掲載されました。
(S. Watanabe et al. 2019, "Hayabusa2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu -- a spinning-top-shaped rubble pile", Science, 19 March, 2019)
DOI: 10.1126/science.aav8032

また本研究は、科学研究費助成事業(JP17H06459, JP17K05639,JP16H04059, JP17KK0097, JP26287108, JP16H04044, JP16H04044)、研究拠点形成事業(International Network of Planetary Sciences)、並びに自然科学研究機構(AB302006)の助成を受けて行われました。

論文著者、所属機関

S. Watanabe1,2*, M. Hirabayashi3, N. Hirata4, N. Hirata5, R. Noguchi2, Y. Shimaki2, H. Ikeda6, E. Tatsumi7, M. Yoshikawa2,8, S. Kikuchi2, H. Yabuta9, T. Nakamura10, S. Tachibana7,2, Y. Ishihara2†, T. Morota1, K. Kitazato4, N. Sakatani2, K. Matsumoto11,8, K. Wada12, H. Senshu12, C. Honda4, T. Michikami13, H. Takeuchi2,8, T. Kouyama14, R. Honda15, S. Kameda16, T. Fuse17, H. Miyamoto7, G. Komatsu18,12, S. Sugita7, T. Okada2,7, N. Namiki11,8, M. Arakawa5, M. Ishiguro19, M. Abe2,8, R. Gaskell20, E. Palmer20, O. S. Barnouin21, P. Michel22, A. S. French23, J. W. McMahon23, D. J. Scheeres23, P. A. Abell24, Y. Yamamoto2,8, S. Tanaka2,8, K. Shirai2, M. Matsuoka2, M. Yamada12, Y. Yokota2,15, H. Suzuki25, K. Yoshioka7, Y. Cho7, S. Tanaka5, N. Nishikawa5, T. Sugiyama4, H. Kikuchi7, R. Hemmi7, T. Yamaguchi2††, N. Ogawa2, G. Ono6, Y. Mimasu2, K. Yoshikawa6, T. Takahashi2, Y. Takei2, A. Fujii2, C. Hirose6, T. Iwata2,8, M. Hayakawa2, S. Hosoda2, O. Mori2, H. Sawada2, T. Shimada2, S. Soldini2, H. Yano2,8, R. Tsukizaki2, M. Ozaki2,8, Y. Iijima2‡, K. Ogawa5, M. Fujimoto2, T.-M. Ho26, A. Moussi27, R. Jaumann28, J.-P. Bibring29, C. Krause30, F. Terui2, T. Saiki2, S. Nakazawa2, Y. Tsuda2,8

1. Nagoya University, Nagoya 464-8601, Japan.
2. Institute of Space and Astronautical Science (ISAS), JAXA, Sagamihara 252-5210, Japan.
3. Auburn University, Auburn, AL 36849, USA.
4. University of Aizu, Aizu-Wakamatsu 965-8580, Japan.
5. Kobe University, Kobe 657-8501, Japan.
6. Research and Development Directorate, JAXA, Sagamihara 252-5210, Japan.
7. University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan.
8. SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), Hayama 240-0193, Japan.
9. Hiroshima University, Higashi-Hiroshima 739-8526, Japan.
10. Tohoku University, Sendai 980-8578, Japan.
11. National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka 181-8588, Japan.
12. Chiba Institute of Technology, Narashino 275-0016, Japan.
13. Kindai University, Higashi-Hiroshima 739-2116, Japan.
14. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tokyo 135-0064 Japan.
15. Kochi University, Kochi 780-8520, Japan.
16. Rikkyo University, Tokyo 171-8501, Japan.
17. National Institute of Information and Communications Technology, Kashima 314-8501, Japan.
18. Università d'Annunzio, 65127 Pescara, Italy.
19. Seoul National University, Seoul 08826, Korea.
20. Planetary Science Institute, Tucson, AZ 85710, USA.
21. Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory, Laurel, MD 20723, USA.
22. Université Côte d'Azur, Observatoire de la Côte d'Azur, Centre national de la recherche cientifique (CNRS), Laboratoire Lagrange, 06304 Nice, France.
23. University of Colorado, Boulder, CO 80309, USA.
24. NASA Johnson Space Center, Houston, TX 77058, USA.
25. Meiji University, Kawasaki 214-8571, Japan.
26. DLR (German Aerospace Center), Institute of Space Systems, 28359 Bremen, Germany.
27. CNES (Centre National d'Etudes Spatiales), 31401 Toulouse, France.
28. DLR, Institute of Planetary Research, 12489 Berlin-Adlershof, Germany.
29. Institute d'Astrophysique Spatiale, 91405 Orsay, France.
30. DLR, Microgravity User Support Center, 51147 Cologne, Germany.

※(2019.4.19追記)サイエンス誌(2019年4月19日発行)に掲載されました。

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