●「はやぶさ2」可視カメラによる科学観測と狙う成果

「はやぶさ2」は、光学航法カメラ(ONC)を搭載しており、7色のバンド分光の機能を持つ望遠カメラのT(直下視)と単色広角カメラのW1(直下視)とW2(斜視)の3つから構成されている。このカメラの主務は光学航法だが、多岐に渡る科学観測も担う。

だが、紙面が限られるので科学目的を網羅的に紹介することはできない。そこで、ここではONCチームが最も頭を悩ませ且つ面白いと感じている可視分光観測を紹介する。リュウグウのようなC型小惑星は、可視域の反射スペクトルに吸収帯がほとんどないため、特徴が掴みにくい。しかし、世界の地上大望遠鏡群の協力で得られた23本のリュウグウのスペクトルは、いずれも広義のC型ではあるものの、狭義には様々なサブタイプ(Cg、C、Cb、Bなど)に分類されるものであった。C型小惑星の構成物質は炭素質コンドライトに近いと考えられている。炭素質コンドライトは種類によって物質組成に大きな差が見られるにもかかわらず(例えば、水や有機物の含有量は桁で異なる)、可視スペクトルには比較的小さな変化としてしか現れない。そのため、地上望遠鏡観測で得られたリュウグウの可視スペクトル多様性は、リュウグウ表面が極めて大きな物質的多様性を持っていることを反映しているのかもしれない。

さらに、可視分光観測は、リュウグウの母天体探しにも重要な役割を果たすと期待している。「はやぶさ2」とOSIRIS-RExのプロジェクト開始以来、両機が探査するリュウグウやベヌー(Bennu)の故郷と目される小惑星内帯は世界中の研究者の注目の的となり、この領域の理解は観測・理論の両面から飛躍的に進んだ。例えば、ポラナ族やオイラリア族が新たに同定され、さらに彼らより古い族の提案も出てきた。4年前にはリュウグウは特定の族には属さないだろうと推定されたが、新しい族が起源である可能性が出てきた。力学的には、どの族由来の可能性もあり得るので、スペクトルの類似性が決め手になるのではないかと予期している。もしこの推定が実現すれば、OSIRIS-RExと「はやぶさ2」の試料の母天体の相互関係も明らかになるため、その波及効果は非常に大きい。

東京大学 理学系研究科 ONCサイエンスチーム 杉田 精司(すぎた せいじ)

光学航法カメラの多色望遠カメラONC-Tのフライト品

光学航法カメラの多色望遠カメラONC-Tのフライト品

 

●LIDARによる小惑星リュウグウの表層と内部の研究

「はやぶさ2」レーザ高度計は探査機が安全に小惑星に接近し、サンプル採集を行うためには欠かせない航法機器であり、同時に小惑星リュウグウの姿や生い立ちを調べるための科学観測機器でもある。LIDARサイエンスチームはレーザ高度計の開発に従事しながら、(A)小サイズの小惑星の形成過程を明らかにし、小惑星の衝突進化モデルを検証する、(B)小惑星上の物質移動など、地質活動を明らかにし、回収試料のコンテキストを与える、という目標を掲げて、小惑星の表層と内部の研究を行っている。

「はやぶさ2」に搭載されるレーザ高度計は距離を測り、探査機運用に役立てられるとともに、リュウグウの形状モデル作成に活用される。また、レーザ高度計は送信光と受信光のレベルを計測することができる。送信光と受信光を比べることで小惑星表面の反射率を調べる。さらに、「はやぶさ2」レーザ高度計にはダスト検出機能が付加されており、世界初の小惑星ダストの発見に挑む。サイエンスチームは地形・反射率・ダスト検出により、小惑星表層環境の変遷を調査する。

サイエンスチームのもう一つの目標は小惑星内部構造の研究である。「内部構造」といっても、月や火星のような重力天体内部と同様に分化が生じているとは考えられない。期待されるのは、衝突・合体の痕跡として残されているかもしれない不均一性と、表層のレゴリス、ボルダーの水平、垂直移動による物質進化である。こうした研究は隕石サンプルの分析データを解釈する上で重要な先験的情報となるだろう。これまでは、隕石サンプルが母天体内で形成されてから地球に到達するまでの間に、母天体同士の合体による天体内部の流動や、サンプルが表層に露出してから後のレゴリス内での上下運動はほとんど考慮されていなかった。しかし、小惑星探査が静的な母天体という描像を変えていく可能性がある。また、「はやぶさ2」の後には火星衛星サンプルリターン計画や深宇宙探査技術実証機DESTINY+による小惑星フェートンフライバイ計画が進められている。小惑星の内部構造と表層進化についての知見は、将来日本が太陽系内の水輸送や前生命環境の研究に踏み込んでいくために、欠かすべからざる情報源になるだろう。

国立天文台 RISE月惑星探査検討室 LIDARサイエンスチーム 並木 則行(なみき のりゆき)

小惑星4ベスタのTarpeiaクレータ

小惑星4ベスタのTarpeiaクレータ(© NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA)。画像中央のクレータの左側斜面に白い筋が見える。これは小規模地滑りによって、地下の物質が表面に露出して出来た反射率のムラと考えられている。「はやぶさ2」の衝突実験によって、同じようなムラがリュウグウでも見られるかもしれない。

【 ISASニュース 2018年5月号(No.446) 掲載】